貸主・借主の権利義務(全12問中1問目)

No.1

建物賃貸借契約における修繕及び費用償還請求権に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
令和5年試験 問23
  1. 建物共用部内の下水管が破損し賃貸住宅の寝室に漏水が発生したときに、賃貸人が長期海外旅行中で連絡が取れない場合、賃借人は賃貸人の帰国を待たなければ、賃貸住宅の修繕を行うことができない。
  2. 経年劣化により故障したトイレの修繕のための費用(必要費)を賃借人が支出しているにもかかわらず、賃貸人がその支払を拒む場合、賃借人は、賃貸借契約が終了しても、賃貸住宅全体の明渡しを拒むことができる。
  3. 賃貸借契約が終了し、賃貸住宅を明け渡してから1年半が経過した時点で、賃借人が必要費を支出していたことを思い出し、賃貸人に対して必要費償還請求権を行使した場合、賃貸人は支払を拒むことができない。
  4. 造作買取請求権排除の特約が付されていない建物賃貸借契約において、賃借人が賃貸人の承諾を得て付加した造作に関し、賃借人が賃貸借契約終了時に造作買取請求権を行使した場合、賃貸人は賃借人と造作にかかる売買契約を締結しなければならない。

正解 2

解説

  1. 不適切。賃借物である建物の修繕は、本来は賃貸人の権利義務ですが、①賃貸人に通知し、賃貸人がその旨を知ったのに修繕が実施されない場合、②急迫の事情がある場合には、賃借人が修繕を行うことができます。漏水の発生はそのまま放置すれば被害が拡大するおそれがあり、急迫の事情に当たることから、賃借人自ら修繕を行うことができます(民法607条の2)。
  2. [適切]。賃借人は必要費を支出した場合、賃貸人に対して直ちにその償還をすることができます(民法608条1項)。賃貸住宅について支出した必要費が弁済されない場合、賃借人は弁済を受けるまで、留置権を行使して賃貸住宅全体の明渡しを拒むことが可能です(民法295条1項)。
  3. 不適切。賃借人が賃貸住宅について必要費や有益費を支出した場合、建物の明渡しから1年以内に請求しなければなりません。賃貸人が賃借人に対して、契約違反の使用収益によって生じた損害を請求するときも同様です(民法606条1項)。本肢は明渡しから1年半が経過しているため請求権は消滅しています。したがって、請求を受けた賃貸人は支払いを拒むことができます。
  4. 不適切。造作買取請求権が排除されていない建物賃貸借では、賃貸人の同意を得て付加した造作(畳、建具など)について、契約終了時に買取りを請求することができます。造作買取請求権は「形成権」であるため、賃借人の一方的な意思表示により効力を生じ、売買契約が成立したのと同じ法律効果が成立します。このため、改めて売買契約を締結する必要はありません(借地借家法33条)。
したがって適切な記述は[2]です。