賃料・敷金等の一時金(全15問中1問目)

No.1

賃借人が賃料債務を免れる場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
令和5年試験 問19
  1. 賃貸借契約で定められた賃料の支払時期から10年が経過すれば、特段の手続きを要することなく、賃借人は賃料債務を免れる。
  2. 賃貸借契約で賃料の支払方法が持参払いと定められている場合で、賃貸人が賃料の増額を主張して賃料の受領を拒否しているときは、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状況にすれば、賃貸人に受領を拒否された場合でも、賃借人は賃料債務を免れる。
  3. 賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合で、賃借人が賃貸人宅に賃料を持参したにもかかわらず、賃貸人が受領を拒否したときは、賃料を供託することが可能であり、供託により、賃借人は賃料債務を免れる。
  4. 賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当したときは、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃借人は、その分の賃料債務を免れる。

正解 4

解説

  1. 誤り。賃貸借契約における賃料の請求権は、債権に該当し、賃貸人が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができるときから10年間行使しないときは時効によって権利が消滅します(民法166条)。しかし、時効は当事者が援用しなければ効果は発生しないため、相手方に伝える等の手続きをしなければ賃料債務を免れることはできません(民法145条)。
  2. 誤り。免れることができるのは履行遅滞の責任であって、履行の提供をしただけで賃料債務が消滅することはありません。借賃の増額請求について協議が調わない場合、請求を受けた者は、裁判が確定するまでは相当と認める額の借賃を支払えば足ります(借地借家法32条2項)。したがって、賃借人が従前の賃料額を持参して、賃貸人が受け取れる状態にすれば履行の提供があったとみなされます。しかし、それだけで賃料債務がなくなるわけではありません。債権者が受領を拒否しているときに、債務を消滅させる方法として供託があります。
  3. 誤り。賃料の支払いは、契約に別段の定めがない限り、賃貸人の住所に持参して行うものとされています(民法484条)。本肢では、口座振替による支払いが当事者間の合意で定められていることから、その方法で賃料を支払わなければなりません。別の支払方法では本旨に従った履行の提供となりませんので、たとえ受領を拒否されたとしても供託をすることはできません。
  4. [正しい]。敷金は、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生じる賃借人の債務を担保するための金銭ですから、賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当することができます。この場合、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃借人はその分の賃料債務を免れます。ただし、賃借人から未払い賃料を敷金から充当するような請求をすることはできません(民法622条の2)。
したがって正しい記述は[4]です。