賃借権の承継と権利関係(全8問中3問目)

No.3

Aを貸主、Bを借主とする賃貸住宅(以下、「甲建物」という。)の所有権がCに移転した場合に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。ただし、それぞれの選択肢に記載のない事実はないものとする。
令和3年試験 問28
  1. Aが甲建物を譲渡する前にBがAから引渡しを受けていれば、賃貸人たる地位はCに移転する。
  2. Aが甲建物を譲渡する前にBがAから引渡しを受けている場合に、AC間で賃貸人の地位をAに留保し、かつCがAに甲建物を賃貸する旨の合意をすれば、Bの承諾がなくても、賃貸人の地位はAに留保される。
  3. Aが甲建物を譲渡する前にBがAから引渡しを受けている場合に、所有権移転登記を経由していないCから甲建物の賃料の支払を求められても、Bは支払を拒むことができる。
  4. Aが甲建物を譲渡する前にBがAから引渡しを受けておらず、かつ賃貸借の登記も経由していない場合に、AC間で賃貸人の地位を移転することにつき合意しても、Bの承諾がなければ、賃貸人の地位はCに移転しない。

正解 4

解説

  1. 正しい。不動産の譲渡前に、借主Bが引渡しを受けている(対抗要件を具備している)場合、譲渡時にその不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人Cに移転します(民法605条の2第1項)。
  2. 正しい。借主が賃貸借契約の対抗要件を具備した後に賃貸借の目的である不動産の譲渡があり、不動産の譲渡人Aと譲受人Cが、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨およびその不動産を譲受人Cが譲渡人Aに賃貸する旨の合意(C→A→Bの転貸借契約の形)をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人Cに移転せず、譲渡人Aに留保されます(民法605条の2第2項)
  3. 正しい。借主が賃貸借契約の対抗要件を具備した後に賃貸借の目的である不動産を譲り受けた者は、その所有権の移転につき登記を経由しないかぎり、賃貸人たる地位の取得を賃借人に対抗することができません(民法605条の2第3項)。したがって、譲受人Cから甲建物の賃料の支払を求められても、賃借人Bは支払を拒むことができます(賃料の二重払いを防止するためです)。
  4. [誤り]。賃借人に対抗要件がない場合には当然には賃貸人の地位の移転は生じませんが、特段の事情のないかぎり、譲渡人と譲受人との間で合意をすれば、賃借人の承諾を必要とせず貸主の地位を移転することができます(最判昭46.4.23)。賃借人に対抗要件がない場合には新所有者から明渡しを求められる可能性があるところ、賃貸人の地位が引き継がれるということは賃借人にとって何ら不利となる事由ではないからです。
したがって誤っている記述は[4]です。